熊本県水俣市 協立クリニックは、水俣病の診断・治療・リハビリ、神経内科、精神科、内科を専門としています。
日本気象学会理事長 新野宏氏に以下のメールをお送りしました。
謹啓
貴殿が2011年3月18日に「日本気象学会会員各位」という題目で出された文書に関して、ご意見申し上げます。
すでにこの文書はネットで多くの人々に閲覧され、大きな反響を呼んでおります。
私は長年水俣病の臨床と研究をおこなってきておりますが、学問が独立性を失い、行政に従属してはならないということを申し述べたいと思います。行政はあくまで学問の独立性を認めたうえで、行政がそれに従うというのが順番であるにもかかわらず、水俣病においては、それが逆方向になり、現在のような状況に至りました。
今回の原発事故においても、原発を許容してきた専門家の独立性の欠如と行政従属の姿勢は、安全性の破たんという誰の目にも明らかな現実により実証されてしまいました。
しかるに、貴殿の文書には、「今回の未曾有の原子力災害に関しては、政府の災害対策本部の指揮・命令のもと、国を挙げてその対策に当たっているところであり、当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません。放射線の影響予測については、国の原子力防災対策の中で、文部科学省等が信頼できる予測システムを整備しており、その予測に基づいて適切な防災情報が提供されることになっています。防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたいと思います。」とあります。
この文書は、調査研究における、行政の優位性を明確にうたっており、政府による単一の情報提供、すなわち各学会員の発表の制約に協力するように要請しており、その期限も明言されておりません。
今回の事故による汚染につきましては、政府により十分情報の周知はなされていません。汚染の規模をみましても、放射線の分布や影響予想については、政府の発表のみでは十分ではない上、科学的検証という意味でも、多くの分析が必要となるはずです。本来、学会というものは、専門性においては行政の上にある存在であり、行政にアドバイスできる立場にあるはずであり、その学会が、自らの会員については、「不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換すること」という前提でこのような文書を出されること自体に違和感を感じざるをえません。学者が一般民衆と隔絶して安住できる時代はとうに過ぎ去っており、いずれ貴殿および貴学会の態度について検証される可能性も少なくないと考えます。
つきましては、貴殿がこの文書を撤回され、学会員が各人の責任に基づきつつ、放射能汚染に関して自由に調査・研究でき、かつ、発表の機会が制約されないことを保証されますよう、お願い申し上げます。
謹白
2011年3月30日
高岡 滋