熊本県水俣市 協立クリニックは、水俣病の診断・治療・リハビリ、神経内科、精神科、内科を専門としています。
熊医会報(熊本県医師会発行)・1月1日号の「年男・年女の新年随想」に院長の文章が掲載されましたので、御紹介致します。
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水俣病をめぐる医学 高岡 滋
ついこの前大学を卒業したような気がしますが、今年で48歳。そのうち前半は山口県、後半は主として熊本県で過ごしたことになります。
水俣病について数多くのデータを積み重ねてきましたが、水俣病ほど医学から見放された病気はないと感じます。
なによりも、「調査研究→病態の解明→対策」という、通常であれば当然辿られるべき疾患解明の医学プロセスが、水俣病においてはほとんど無視あるいは省略されてきました。
最高裁判決にもかかわらず国は昭和52年判断条件を水俣病診断基準としていますが、ノーモア・ミナマタ訴訟の被告である行政の、この間の水俣病の病像に関する主張はかなり混乱しています。政策以前に、医学的に妥当な知識や情報の蓄積がないように思えます。
メチル水銀というのは、ごく短期間でも一定量以上の曝露を受けると劇症症状を発症しうる猛毒です。それがより少量の曝露になってくると、健康障害をきたしていても自覚症状さえなく、長期経過した後に気づかれたりするのです。
「メチル水銀がどのような健康被害を起こしうるか」を追求したり理解したりすることなしに、とにかく「水俣病が社会問題として存在することを終わらせる」ことを優先すべきであるかのように言われる人がおられます。しかし、このようなあり方は、それがどんな良心からなされようとも、人類の将来にとって禍根を残すことになると思います。
様々な社会的な見方が存在しうるなかで、水俣病の臨床と研究を継続するために、今年もまた、「医学とは何か?」、「医学は何のためにあるか?」、「通常の医学であればどのような研究プロセスが考えられるか?」と自問自答し続けなければなりません。